繰り返される質問
今回は、認知症の方が『同じ事を何度も質問するのはなぜか』というお話です。その謎を解くには、記憶の仕組みを理解する必要があります。
人間は覚える時、情報を脳の【短期記憶】と【長期記憶】の箱に入れます。
初めての相手に電話をかける時を思い浮かべてください。
番号を一瞬だけ頭に入れ、電話をかけたらすぐ忘れる。この“一瞬だけ頭に入れる”のが短期記憶の箱です。その後その番号を何度も使う場合、長期記憶の箱に移動して、いつでも取り出せるようにします。
長期記憶は、情報を長く入れておくことのできる箱です。
ところが認知症の方は、情報を長期記憶の箱に移動することが苦手です。
「私ご飯食べた?」と質問して「食べた」という答えが短期記憶の箱に入っても、長期記憶の箱には移動しないことがあります。
その場は納得しても長期記憶の箱に入っていないので、同じ質問をしてしまうのです。
ちなみに老化による物忘れは、この長期記憶の箱から情報を取り出せず「あれ、なんだっけ…?」と思い出せない状態です。
誰かがご本人に悪口を言った等、覚えていてほしくない事に限って覚えていることがありますね。悲しい・嬉しいなど感情を司る脳の部位は、記憶の箱と近いので、そのような情報は長期記憶に移動しやすいのです。そのため感情のやり取りをする機会が多い家族は、嫌な事ばかり記憶されて、攻撃の対象になってしまうことがあります。
では同じ事を質問された時は、どのように対処すればよいのでしょうか。
◉ 後で確認できるよう、メモに残しておく
◉ 食事なら、食べた食器を残しておく
等、目に見える形で答えを残す方法があります。
つい言いたくなる「さっきも言ったでしょう!」は、拒否されたという感情だけが記憶に残ってしまう可能性があるので、避けた方がよいのです。
と書くのは簡単ですが、実際に身近な家族から同じ質問を何度もされると、なかなか上手くはいかないですよね。
やってられないよー!という時は、ケアマネージャーさんなど周りの支援者に話してみてください。悩みを共有してご家族の気持ちが少し軽くなるだけでも、認知症の方によい効果をもたらすことがあります。モアのスタッフもお力添えしますので、声をかけてくださいね。