頭をぶつけたら、、
コロナウイルスの影響で外出機会が減って運動不足になっていませんか?
運動不足になると心配なのが、筋力低下などによる歩行時の転倒です。
転倒して太ももの骨を骨折すると、これを機に寝たきりになることもあります。
転倒で怖いのは骨折だけではありません。
骨折はしなくても、頭をぶつけてしまうとやはり様々な症状が出ることがあります。
特に気をつけなくてはいけないのは、時間が経ってから症状が出ることがあると言うことです。
時間が経っていることから、本人も家族も頭をぶつけたことを忘れてしまって慌ててしまうことがあります。私の父も頭をぶつけて約1か月後に症状が出ました。もちろん想定していたので慌てることはありませんでしたが、驚きはしました。
さてこの病名は何かと言うと、『慢性硬膜下血腫』と言います。
脳を包んでいる硬膜の下に血腫ができ、その血腫が脳を圧迫するために様々な症状が出るというものです。そして受傷後すぐ(急性)ではないので慢性です。
なぜ硬膜の下に血腫ができるのかと言うと、頭をぶつけるとその衝撃で頭蓋骨の中で脳が動き、脳と硬膜の間の静脈が引っ張られ、切れて出血することでできます。
でもなぜ高齢者に多いのでしょうか?
それは加齢により脳が委縮し頭蓋骨(硬膜)と脳との隙間が広がり、衝撃を受けた時に脳が大きく動くスペースができてしまうためなのです。なぜすぐに症状が出ないのかと言うと、主に切れる血管は微細なものであるためすぐに影響の出るような大きな血腫となるような出血が起こらないからです。ただ微細とはいえ、切れれば出血はしているので徐々に出血量が多くなり血腫となり、やがては脳を圧迫して症状が出てくるのです。
この症状が出るまでに数週間から数か月が掛かるのです。
ではどんな症状が出るのでしょうか?
人によっても異なるのですが、頭痛や嘔吐、片麻痺やしびれ、痙攣、言葉がうまく話せないなどの他人が見てもわかりやすいものの他に、他人から見てわかりにくい認知症の記銘力低下、見当識障害、意欲減退などがあります。
私の父は真っ直ぐ歩けなくなり(片麻痺)、会話が噛み合わなくなる(見当識障害)症状が出現して気づきました。高齢者であると、「最近おじいちゃん呆けちゃったね」と見過ごされることもありますので注意が必要です。でもこの「呆け」は適切に治療をすると治るものですので見逃さないようにしたいです。
診断は病院でCTやMRIで検査をすれば簡単にできるものです。そして治療法についてですが、大きな血腫であれば手術で頭蓋骨に穴を開けて直接血腫を取り除く方法や、小さな血腫であれば定期的に経過観察していく保存的治療があります。手術をすると嘘のように症状が改善します。父の場合もそうでした。
さてここで最も大事なことをお伝えすると、“頭をぶつけた”と言うことを本人以外(主に家族、本人は症状が出るとわからなくなる可能性があります)が数か月の間覚えておいて、上記のような症状が出るかもしれないと想定しておくことです。
離れて住んでいると頭をぶつけたことを知らなかったり、転倒などの失敗を正直に家族に言わなかったりすることもあるので注意が必要です。急に「呆けた」や「歩けなくなった」はこの病気の可能性がありますので医師に相談することをお勧めします。
大切な人を「歳で呆けちゃった」で簡単に片づけないでください。
治るものかも知れませんよ。